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まるい地球を駆け抜けろ

第三回 海中出産の島

文・写真:つなぶちようじ | 2007.12.07

(写真その1)

 ロタ島をご存じだろうか? ロタブルーといわれる海の色が印象的な美しい島だ。サイパン島とグァム島のあいだにある。2006年にロタ島に行ってきた。何年も行きたくて行っていなかった。なぜその島に行きたかったのか。
 友人がその島で海中出産をしたからだ。
 海の中で出産する人はほとんどいない。水中出産でさえ珍しい。なぜ彼女は海中で出産したのか。彼女によればお腹の中にいた赤ちゃんが海で生まれたいと語りかけてきたのだそうだ。
 ぼくのはじめての著作は『胎内記憶』という本だ。七田眞さんと共著でダイヤモンド社から出した。それ以前から出産に興味があった。男なのに出産に興味があるというと不思議がられる。きっかけはベルギーで見たビデオだった。ベルギーのオステンドにある総合病院の産婦人科に水中出産の施設がある。そこのビデオを見て感動した。ビデオでは逆子の赤ちゃんがゆっくりと自分で身体を揺すりながら出てきた。まるでイルカの子供がしっぽから生まれてくるように、足から生まれてきても誰もあわてない。子供は水に出ると母親に抱えられて安心したような表情を見せる。水から出てくるときも穏やかだ。うっすらと微笑んでいるようにも思えた。水から上げられると呼吸を始める。それから臍の緒を切る。普通の出産で見られるように赤ちゃんは泣いたりしない。穏やかな出産になる。穏やかな出産で生まれた子供は性格も穏やかになると言う。衝撃的だった。人間は動物で、動物的感覚に委ねられれば素晴らしい出産になるという事実を突きつけられた。

(写真その2)

 ロタ島で海中出産した友人は出産場所を探してハワイやバリ島の海辺を見て回ったそうだ。しかし、出産に適した場所が見つからない。あるヒーラーに相談したらロタ島がいいと言われた。出産間近に彼女は夫婦でその島に行き、いい浜辺を見つけテントを張って出産の時を待ち、無事出産した。
 なぜその場所にしたのか何度か聞いたが、ひとがいないことと、いい場所だったからとしか返事は帰ってこなかった。どんないい場所なんだろう? それを確かめたかった。
 気候はハワイのようにからっとしている。ひとがあまりいない。町に出ても車が少し走っている程度でほとんど誰も歩いていない。しかも時々すれ違う車の運転手がみんな手を挙げて挨拶してくる。はじめはぼくに挨拶しているとは思えなかった。すれ違う車の運転手がみんな手を挙げるので何をしているのか不思議に思った。
 浜辺はどこも穏やかだった。ロタ島はもともとサンゴ礁が隆起してできた島なので、遠浅で、サンゴ礁が島を囲んでいる。だから浜辺には波がほとんど立たない。
 島には医者が数名しかいないそうだ。彼女はたったひとり見つけた医者に何かあったら助けてくださいと言ったそうだが、産婦人科医でもないそのひとりの医師になぜ自分と赤ちゃんの命を委ねられたのか。ロタの浜辺でしばらく考えてやっとわかる。彼女は医師に命を委ねたのではない。ここにある自然のリズムに身を委ねたのだ。太陽が昇って沈むこと。潮が満ちて引いていくこと。月が満ちて欠けていくこと。
 彼女にはぼくのなかにある、ある思いがなかったのだ。「出産は危険なことだ」というその思い。医療がないと出産の成功率は落ちるという事実が、より安全な出産を求めてきわめてもろい何かを忘れさせている。たしかに、医療のおかげで出産の成功率は上がった。次のステージはきっとその質を上げることだろう。質を上げるために必要なことが自然のリズムなのではないか。病院や医師のスケジュールに合わせて薬物によって生まされる出産は、確かに出産の成功率を上げたかもしれないが質は上がったのだろうか? 

(写真その3)

 自然の花は咲くときに咲く。木になる実は熟して落ちる。人間もそうあるべきなのではないか。
 ロタ島の青い海と、そこを吹き渡る風は自然のリズムを思い出させてくれる。空には太陽。雲が流れ、風が吹く。天候によって変わる海の色。夜になれば月が浜辺を照らす。その当たり前のはずの風景が出産の後押しをしてくれる。
 サンゴ礁に守られた穏やかな海と、手つかずに近い自然が、人間も地球の上で宇宙のリズムに揺られて暮らす動物であることを深く思い出させてくれた。


プロフィール

つなぶちようじ
つなぶちようじ

ライター。文章ワークショップ「ヒーリング・ライティング」主宰。NPO法人「ピース・キッズ・サッカー」理事。著書『胎内記憶』『あなた自身のストーリーを書く』など。マラソンを5時間以内で走ろうと調整中。
http://www.tsunabuchi.com/


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コメント

はじめまして。
ロタ島、素敵なところですね。
海中出産に興味があり、検索したらここにたどり着きました。
つなぶち先生の「胎内記憶」を以前読んだことがあります。
とてもいい本でした。
ところで、実際に海中出産するためにはどんな手続きを踏めばいいのでしょうか?
もしよろしければ教えてください。
現在妊娠八ヶ月です。

投稿者:みんみん
2008年04月09日 13:48

みんみんさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
もうすぐ、大イベントなのですね。
早急につなぶちさんから詳細をお伝えしてもらいます。
しばし、お待ちくださいね。

投稿者:LOHAS編集部
2008年04月09日 20:59

みんみんさん、はじめまして。
『胎内記憶』ご購読ありがとうございます。
海中出産のための手続きというものはありません。
一般的に海中出産は妊婦や胎児への安全対策が取れないため、しない方 がいいと言われています。
ロタ島で出産した友人はリスクを知った上で自分なりの準備を十分して 海中出産しました。
では何が十分な準備かというと、それは一概には言えません。
どんなに完璧な準備をしてもうまく出産できない可能性は残ります。
それが自然というものです。
なので私からは海中出産をお勧めしません。
自己責任においてやるかどうかを考え、それでもやるのであれば素晴らしい体験になるかもしれません。

投稿者:つなぶちようじ
2008年04月23日 13:39


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