まるい地球を駆け抜けろ
第一回 バリ島のお葬式はなぜ明るいのか
文・写真:つなぶちようじ | 2007.06.29
あなたは「生まれ変わり」を信じますか?
ご縁があってバリ島のお葬式に参列しました。お葬式というと日本では暗く重苦しいものですけど、バリ島のお葬式は違います。なにしろ誰かにこれからお葬式に行ってきますと言うと「Enjoy the ceremony」と言われるのです。最初に聞いたときは「は?」と聞き返してしまいました。実際、お葬式に参列している人たちはみんなにっこりと微笑んでいたりするのです。
バリ人は人が生まれ変わると信じています。だから、生まれて数日すると子供をお坊さんのところに連れて行き、その子が誰の生まれ変わりかを聞くのです。死は取り返しのつかないものではなく、繰り返される人生の節目のひとつでしかないのです。
参列したお葬式でもう一つ驚いたことがありました。亡くなった方のお孫さんの成人式を一緒にしたのです。バリ人は成人式として削歯儀礼をおこないます。犬歯を削ることではじめて人間になるそうです。犬歯があるあいだは動物と同じだとか。輪廻転生を信じているからこそ、お葬式も成人式も同じ、連綿と繰り返される通過儀礼のひとつなのです。成人式がめでたいのと同じく、お葬式もめでたいのです。
バリ島のお葬式ではたくさんの人が関わるので、日本人にとってはまるでお祭りです。今回もいろんな儀式が次から次へと行われ、結局五日間続きました。これだけ手厚く葬ってもらえれば誰でも成仏するでしょう。祭りの、いやいやお葬式の、クライマックスである四日目が「プレボン」と呼ばれる火葬式でした。その日は朝からいろいろな読経が続き、昼頃、可能な限り高い塔のような御輿にご遺体を載せて村を練り歩きます。男たちに担がれた御輿と千人にも及ぶ長い行列は寺院の広場まで移動し、そこでご遺体は牛の棺に載せ替えられて荼毘に付されます。火葬式は最後に海で散骨するまでまるまる1日かかりました。まさに人生最大のイベントです。
僕がはじめてバリ島のお葬式を見たのは2004年3月でした。その年の1月に母を亡くし、バリ島に来たら盛大なお葬式を見ることができました。
日本に帰国し、夕焼けを眺めながらバリ島のお葬式のことを思い出していると、ふとバリの知人がかつて話してくれたことを思い出しました。
「僕の前世は曾お祖父さんなんです。だから曾お祖父さんの家に行くととても気持ちがいい」
それを聞いたときは本当かな?と思いました。輪廻転生の話しを信じ切れずにいました。いまでも信じ切っているわけではありません。しかし、それを思い出して、輪廻転生の価値を悟りました。
「もし母が生まれ変わったら、僕はその子を大切にするだろうな」
母には苦労ばかりかけました。前日まで元気だったのに、ある日ぽっくりと死にました。残された僕は母から受けた恩をどうやっても返すことができなくなり、悲しい思いをしました。このことと「曾お祖父さんの家に行くと気持ちいい」という言葉がつながったのです。
輪廻転生するという物語を受け入れることで、人は世代を超えた恩のやりとりを可能にするのです。
僕の知人は曾お祖父さんの生まれ変わりだから、その家に行くと恩を返したいと思っている人たちがいろいろとしてくれます。僕は母に恩を返すために生まれ変わった子にせっせと何かするでしょう。恩返しする側もうれしいし、される方もうれしいのです。
バリ島の明るいお葬式は、きっとこの善意の連鎖が支えているのでしょう。
プロフィール
つなぶちようじ
ライター。文章ワークショップ「ヒーリング・ライティング」主宰。NPO法人「ピース・キッズ・サッカー」理事。著書『胎内記憶』『あなた自身のストーリーを書く』など。マラソンを5時間以内で走ろうと調整中。
http://www.tsunabuchi.com/
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バリ島のお葬式は「ガベン」というと聞きましたが、こちらでは「プレボン」と書いてあります。「ガベン」と「プレボン」はどう違うのでしょうか?
投稿者:ひこ
2007年07月09日 15:44
ひこさん、
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、バリ島のお葬式は「NGABEN(ンガベンあるいはガベン)」とも呼ばれます。スードラと呼ばれる平民層では「ンガベン」、トリワンサと呼ばれる僧侶・貴族・商工の三つの階級のお葬式を「PLEBON(プレボン)」と言います。
呼び方だけではなく、階級により火葬のモチーフになる動物や塔のデザインも変わります。
ご興味があれば、またお問い合わせください。
投稿者:LOHAS編集部
2007年07月09日 17:45
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