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おとなの能書き

第二十二回 花冷え…

文:イッコー・オオタケ | 2009.04.07

 例年より早い開花宣言が出て、やっと本格的な春の到来を期待した途端に全国的な強い寒波の襲来でお花見気分はなんとなく宙に浮いたままで腰の落ち着かない今日この頃だ。

 昨年来の全世界的な大不況、金融危機の影響下で日本も長く暗い気分に覆われている。
 僕も商売を生業(なりわい)にしているので肌身に沁みてよく分かるが、昨年秋以降の消費の落ち込みはこれまで前例の無いほど酷い状況だった。
 それだけに暖かい春の陽気に包まれて人々が活動的になる桜の時季を多くの人々が待ち望むのも無理からぬ話しだ。

 僕は宴会もどきのガヤガヤした花見は御免こうむりたいが、静かに花を眺めるのは大好きだ。特に好きなシチュエーションとしては夕刻にひと雨あった後の霞みの中に浮かぶ夜桜は何とも例えようもなく美しい。
 僕にとってはこれが桜のベストシーンである。
 ここは一番、桜といっしょに景気にもパッと明るい花を咲かせてもらって、落ち込んだ気分も盛り上げて欲しいものである。

 ところでこの百年に一度などと言われる「大不況」、いや専門家の間ではこれは「大恐慌」だ、とも言われているけれど、アタマの悪い僕にはどうもよく解らない。
 何の前触れもなく、一体何でこんな「大恐慌」なんてモノが突然降って湧いてきたのか、ということだ。
 つまり原因にまったく実感が伴わないのである。多分これは多くの方が思っていることなのじゃないだろうか。

 第一にこれは本来、日本には何の関わりもないところから発生しているのである。
 別に戦争や大災害があった訳でもなく、日本の大企業や銀行が倒産した訳でもないのだ。
 発生源は米国の金融機関が煽った多額のマイホームローンの焦げ付きだ。そこにカネのにおいを嗅ぎつけて集まったヘッジファンドやら金融、証券会社が寄ってたかってウソ臭い“金融商品”に仕立て上げて世界中にバラ撒いた。
 その結果に世界中の人々が翻弄(ほんろう)されているというのがこの「大恐慌」の正体だ。

 従って普通にマジメに働いている人たちには一切無関係な話しなのだ。何でこんな訳の解らんモノに世界中の人々が振り回されなきゃならないのか。
 なんともバカげた話ではないか。
「グローバル経済」なんぞという言葉がマスコミにもてはやされてきたが、よくぞ言ったものである。
 なるほどそういうことか…とこれでやっとその意味が理解できた。

 事の本質は目に見えないカネが更に莫大なカネを生む経済活動に躍起になって地道な技術や生産労働を軽視する現代の経済システムにあるのだ。
 実態の無いモノに投資する金融資本主義というものはマーケットが小さい内はともかく、これだけ世界的に規模が膨らんでくるともう成り立たないのじゃないかと思う。
 負のしわ寄せはすべて「金融商品」とは縁のない生産労働で生計をたてる人たちや貧しい人々に回ってくる。
 つまり金融資本主義はもう寿命が尽きたと言っていい。

(写真その1)

 話は変わるがこれとは反対に寿命が尽きたら困る問題もある。
 ソメイヨシノである。
 日本の代表的な桜のソメイヨシノには寿命がきているというのである。これは看過出来ない大問題だ。みんな大好きな「お花見」が出来なくなってしまうことになる。

 これはどういうことかというと桜には色々な種類があるのだが、そもそもソメイヨシノという桜は原種ではない。
 確証はないらしいが江戸時代の後期にオオシマザクラとエドヒガンという種を人工的に交配させて作ったという説が有力のようだ。
 ちなみにソメイヨシノの語源は現在の東京駒込のあたりが染井村と呼ばれていた頃、造園師や植木職人たちの集落が多くあってこの人たちが接ぎ木の手法でこの新種を作ったという説によるものだ。
 寿命についても植物学者による通説らしいが「ソメイヨシノの60年寿命説」というのがかなりの信憑性をもって語られている。
 現在、日本国内の桜の約8割がソメイヨシノなのだそうだ。
もちろんこれがいっぺんに枯れる訳ではないらしいが、多くの桜の名所とされる場所の桜は戦勝記念や復興の象徴として昭和10年代~20年代に植えられたもので、樹勢の衰える時期にさしかかっている。

 そもそも人工交配種のソメイヨシノは原種に比べて寿命が短く、これに大気汚染や環境問題の影響もあってあまり手入れもされないままに植えっぱなしの状態が続いて樹木の体力が弱まっているのだという。
 実際、専門家が東京の桜の名所「千鳥ヶ淵」の桜を調べてみるとそのほとんどに病虫害に侵されるなどの老朽化が現れていてこのままいくと数年先には花を咲かせなくなってしまう状況が危惧されているようだ。

 いやはやこれは困った問題だ。
 毎年毎年、満開の桜が咲くのが当たり前のように思ってはいけない。桜が美しい花をつけるのには地道な手入れと周辺環境を整えねばならない。
「驕る平家は久しからず」である。

 戦後ワシントンに友好の証しに贈られて今では多くの米国人に愛されているというソメイヨシノにも蕾みがこぼれはじめる頃だ。
 米国を基軸とするグローバル経済の在り方にもそろそろ寿命が訪れつつあるような気がしてならない。


プロフィール

イッコー・オオタケ
イッコー・オオタケ

1960年東京の下町に生まれる。10年に渡り広告プランナーとして会社勤務の後、母親の実家である浅草仲見世の老舗小間物店の七代目店主となり屋号を継ぐ。
目指すところは“由緒ある下町の小言ジジィ”。


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