地球に優しいリフォーム考
日本の諺に「座って半畳、寝て一畳」という言葉がある。いくら虚勢を張ろうとも、権力を誇示しようとも、人は所詮それだけの大きさでしかない――。人の欲気を戒める言葉として伝えられるが、このところ、日本の家作りにも、しっかり反映されているようだ。もちろん、地価の高い都市部では、必然的に狭小住宅になる傾向はあるもの、比較的安価に土地が入手できる地方でも、いたずらに広い家を建てようとする人は少なくなったようだ。さらに、このところ、環境に配慮したリフォームを目指す人が増えているようだ。
LOHAS編集部 [2007.11.18]
「減築」なる言葉を聞いたことがあるだろうか? おそらく、ほとんどの読者の方は初めてではないだろうか。これは建築家の岡部克哉氏がリフォームの際に提唱しているもの。元来リフォームというと、「増築」に代表されるように、子どもの成長などに伴い手狭になった住居を拡張するなど、建築面積や部屋数を増やすことに重点が置かれていた。
しかし、逆に子どもたちが巣立ち、夫婦二人になると、従来の家では広すぎたり、使わないで納戸となる部屋が生じるケースが少なくない。
心地よい住環境は自分サイズから
「洋服が身体のサイズに合っていないと着心地が悪いように、住宅も生活形態に合っていないと居心地が悪い。『減築』とは、文字通り不必要な部屋やスペースといった物量を拭い去り、代わりに質を付加する作業、とぼくは考えています」
たとえば、家族4人で暮らしている場合、子ども二人にそれぞれ部屋を与えている家庭もあるのではないだろうか? そして子どもが結婚や独立して家を離れると決まって子ども部屋は納戸と化す。
「もったいないですよね。住宅は、ある意味で道具ですから使わなければ意味がない。デッドスペース、デッドルームを無くす意味でも『減築』は有用だと思います」
たとえば、リビングに続く和室を取り払いひと間とし、そこにはやりのホームシアターを作ってみてはいかがだろう。歳をとってからの畳での生活は膝や腰に負担がかかるというし。趣味の空間を実現するとともに、身体への負担が少ない椅子の生活をスタートさせるきっかけにもなる(右図参照)。
また、2階に日常的に使わなくなった子ども部屋があったなら、そこを思い切って1階からの吹き抜けにするのもいいだろう。必要以上の部屋をいたずらに残すよりも、空間としての質を高めたほうが、気持ちのいい生活空間になることは間違いない。
(図1)
日常に使うことが少なくなった和室とリビングをワンフロアーとし、そこにホームシアターを構築した例
廃材を出さないリフォーム考
岡部さんは、さらに最近では環境問題についても、建築家の立場から取り組んでいる。「建築家としては創造の対象として建造物は作りますが、いまの環境を考えると、少しでも地球の負荷を減らす方向で、建物は作らないといけないなと最近痛感しています。もちろん、ぼくは環境問題の専門家でありませんが、よく言われるように、このままでは地球が破綻することは間違いないでしょう。
経済成長を最優先したため多くの公害病が発症し、その対策を講じたことで環境が改善された部分があるように、環境問題に対しても、いろいろなレベルで対策を講じていく事が環境改善に対して必要な事は論をまたないと思います。
“隗より始めよ”ではないですが、まず建築家の自分としてできることはなにか、それを考え始めたんです」
そのひとつのアクションが、極力廃材を出さないリフォームだ。なるほど。周知のように、建築関連の廃材は「産業廃棄物」として処理せねばならず、そのコストは施主の負担となる。環境ばかりではなく、施主の懐にも優しいリフォームとなるわけだ。岡部さんがそれを実践した物件をご紹介しよう。
(写真1)
築40年の木造2階建(店舗+住宅)だが、施主の生活の中心は1階で、2階はほとんど使っていなかったそうだ。
「建物の両サイドは6階建、7階建の建物が迫っていて、窓からの自然採光は期待出来ません。そこで2階の使っていない3室のうち、真ん中の1室を無くして吹抜けとし、更にその上部にトップライトを設けて空間の拡がりを確保しました。そうすることで、1階にも自然光を取り込むことができますから」
なるほど、これが「減築」ということか。
「この物件は施主の『なるべく、住み慣れたわが家の面影を残したい』という希望もあり、既存の柱や梁はそのままにしました 」
木造在来住宅の場合、梁、柱と言った構造材を入れ替えるとなると、かなり大掛かりなリフォームとなる。換言するならば、構造材をいじらなければ、内装の変更だけで済む、ということだ。さらに、この物件はダイニングテーブルに代表されるように、随所に“廃材の再利用”が見られる。取り外した部材を廃材として捨てずに、手を加えることによって再生しているのだ。
vol2の特集でお伝えしたように、京都議定書に謳われたCO2削減の目標値達成は、怪しくなっている。地地球の病を少しでもくい止めるためにも、リフォームをする時は「廃材を出さない」デザインを一考していただきたい。そのほうが、間違いなくお得ですし……。
Profile
岡部克哉(おかべ かつや)
東京芸術大学大学院にて建築設計を学んだ後、古代から近代までの建造物を巡る放浪の旅に出る。帰国後、岡部憲明氏に師事。1997年に自身の事務所を設立。その独創的な空間構成力が高く評価され、2003年「あたたかな住まいの設計競技」最優秀賞。2006年「ぐんまの家設計競技」入賞を果す。日本建築家協会会員
岡部克哉建築設計事務所
TEL:03-5419-3331
http://www.koo.co.jp/
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