LOHAS(ロハス)なライフスタイルを創造する生活情報雑誌






LOHAS編集部が惚れ込んだマイスター
ストレスフリーの豚舎
みやじ豚
代表 宮治勇輔さん

「おいで」と手を出すと、まさに“ブゥー、ブゥー”と言いながら子豚がよって来る。とっても人なつこい。この人なつっこさこそ、みやじ豚の美味しさの秘密である。従来の効率重視の養豚を根本的に見直し「腹飼い」と言われる兄弟だけで育てる独自の飼育方法によって、豚たちはストレスなくすくすく育つことになる。
LOHAS編集部 [2008.01.11]


『料理長のお取り寄せ手帖』という特集でロハスサンの「Premiumコーヒー」が紹介された雑誌「クロワッサンプレミアム」(マガジンハウス)では、「釣りたらこ」なる品が挙げられていた。麻布長江の長坂松夫さんのお勧めだが、ハエナワ漁で一匹ずつ釣ったスケソウタラは網でごそっと獲ったものに比べるとストレスがかからず、そのたらこは格別に美味しいそうである。魚でさえ、ストレスが味を大きく左右するのだから、哺乳類である豚ともなれば、なおさらだろう。昨年末、大森山動物公園(秋田市)で母キリンを亡くした子キリンが、そのストレスによって急死した例もあるほどだ。

やっぱり違う
「いい肉」と「美味しい肉」

 「一般的に豚肉の取引価格は、枝肉(各部位に切り分ける前の状態)での背脂の厚さやあばら骨のくぼみ方、またモモ肉のつき方などで格付けが決まります。つまり、その評価基準に味は入っていないのです。そのため、高値で取引される“いい豚”を作るためには、血統が重視されるんです。でも、ぼくは美味しい豚を作りたい。だからウチは育てる環境を大切にしています」
 そう話すのは、慶應大学湘南藤沢キャンパスのすぐそばで養豚業を営む宮治勇輔さん。お父さんが始めた養豚場を弟の大輔さんとともに引き継いだ。実は、藤沢の北西部(県中央部)は、幻の豚とされる「高座豚」発祥の地でもあり、大正時代から養豚が盛んであったのだ。
 前回の本項にご登場いただいた浅野ファームの浅野悦男さんが言っていた「美味しい野菜といい野菜は違う」が、養豚でも言えるようだ。
 宮治さんが育てる豚が「美味い」と話題の理由は「腹飼い」と呼ばれるその飼育法にある。一般的に豚は生後6ヶ月前後で出荷される。その間、成長に応じて数回囲いの入れ替えを行なうのだが、宮治さんは一貫して同じ母豚から生まれた子豚だけをひとつの囲いに入れて育てる。

本来の姿で育てなければ
本当の味にはならない

 なぜ、そうするのか? 豚は元来群れを強く意識する動物であるため、母豚が異なる子豚が同居すると、絶えず縄張り争い(ケンカ)が起こるそうだ。そうなると、豚は日々ストレスを抱え込むようになる。しかし、一頭の母豚が一度に出産する子豚は6~12頭とばらつきがある。仮にひとつの囲いの“定員”が10頭のところに、5頭しか産まなかった場合には、生産効率を上げるため、他の母豚から生まれた子豚を入れて飼育する。つまり6ヶ月の間に多い養豚場では5~6回も群れが入れ替えられるのだ。そうなると、どの豚も自分の居場所がなくなり、ストレスは膨れる一方となる。ここに、宮治さんは疑問をもったわけだ。
「たしかに、効率は悪いです。でも、どんな銘柄豚であろうと、どんな餌を与えようとも、豚は生き物なんです。すくすく育てない限り、絶対に美味しい豚は作れません」
 すくすく育てているため、宮治さんは場合によっては豚舎を見学させる。豚は細菌に感染しやすいため、一般的な養豚場は、部外者を豚舎に入れることはない。ここでも、自分の豚の健康状態に絶対の自信を持つ宮治さんは定説を否定する。
「もちろん、入舎の際に靴の消毒など必要最低限なことはしますが、そう過保護にする必要もありませんから」

生命の受渡しをしているような
実に滋味深い味わい

 みやじ豚は、ランドレースと大ヨークシャの母豚にデュロックを父豚にした三元交配種。品種としては、ごく一般的なものである。現在、食用豚は約20品種でありながら、登録されている銘柄豚は255種。このことからも、血統偏重がおかしいことが伺える。
 飼料は大麦を主体にしたものではあるが、一般的に入手できるもので、特別なものではないそうだ。
 後日、肩ロースで焼き豚を作ったが、肉の部分がしっとりと柔らかく味が濃い。脂部はミルクのようにほんのり優しい香り。あの、ちょっと鼻につく豚特有の匂いが一切しない。健全に育てられた豚は、これほど上品なものなのか。そしてなによりも、まさしく命の受け渡しをしているように滋味深い味わい。考えてみれば、管を口に入れられ、四六時中餌を与えられてぶくぶく肥やされたガチョウの肝臓よりも、深海の中で耐え育ったアンコウの肝の方が旨いもんな。豚に限ったことではないけれど、工業製品よろしく大量生産される精肉に、そろそろ“NO”という時期なのではなかろうか。


(宮治さん)

弱冠29歳ではあるけれど、その養豚にかけるひた向きさには頭が下がる思い。

(子豚/アップ)

犬のように、手を出すとよってくる子豚たち。

(子豚/囲い)

ご覧のようにゆったりと囲いの中で育てられる子豚たち。この兄弟(姉妹か?)は全部で4頭だが、それでも「腹飼い」を通すため、他の母豚の子どもはこの囲いの中には入れない。

(餌箱)

時間になると、ひと箱ずつ豚に話しかけながら餌を配って回る。


(子豚にチュー)

スキンシップも、もちろん大事です。


トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://www.lohas.co.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/99

トラックバックされた記事


コメント


コメントを書く

ご意見や感想をお寄せください。


※ご投稿いただいたコメントは、編集部にてチェックの上で掲載いたしますので、表示されるまでに多少お時間をいただいております。