褐色の滴と真っ向勝負!
焙煎職人
間菜舎主宰 高田啓治さん(58歳)
創刊準備に追われるロハス編集部。東の空が白々と開け始めた頃、編集部員のRが、ユニマットの煮詰まったコーヒーをカップに注いでいた。傍らのOに「飲む?」と声をかける。「それ、まだコーヒー?」とO。「まぁ、色はかろうじて……」。空気も完全に煮詰まっている。すると、うつらうつらしていたMが「そういえば、先日西伊豆に凄いコーヒーを作る人がいるって話し聞いたなぁ」。「グッドタイミングだね、飲みに行こうよ、そのコーヒー」。エディターズ・ハイの3人は、いきおい、まだ車が疎らな首都高3号線から西伊豆に向かった。 2007.06.29
三島由紀夫が著作「獣の戯れ」の中で、その美しさを活写したことでも知られる黄金崎海岸。そこから車で10分ほどの棚田が広がる山里に、間菜舎はあった。主宰の高田啓治さんは、在京のコーヒー豆の焙煎を専業とする会社に勤務、焙煎職人として大手コーヒーメーカーの新商品開発にも参画するほど、業界での評価は高かった。しかし、サラリーマンとして会社に勤務している以上、どうしても売れる、または売りやすいコーヒー豆を焙煎することを優先せざるを得ない。いまから15年前、高田さんは会社を退職、東京からこの地に移り住んだ。自分自身で納得する焙煎をするために。
「ここは、何と言っても空気が美味しい。コーヒーは“農作物”ですから、やはり自然環境がしっかりした土地でないと……」
下坂農園
約20種のコーヒーを栽培。ボルボン種だけで約75平方キロメートルの作付面積を誇る。農場主の下坂匡さんは、来日の際は必ず自身が栽培した豆を使用するコーヒー店や焙煎店に出向き、どのように淹れられているか確認して回る。
高田さんが焙煎する豆は、ブラジルにある下坂農園が栽培するボルボン種のみ。しかも、ニュークロップ(新豆)以外はロースターに入れない。コーヒーに詳しい方であればご存知かと思うが、一般的にコーヒー豆は収穫から数年経った物が「オールド・ビーンズ」、または「ビンテージ・ビーンズ」と呼ばれ、同じ品種でもより珍重される。そう、まさしくワインと同じように。しかし、高田さんはそれを真っ向から否定する。
ボルボン種
ブラジル・コーヒーの原種とされているが、病害虫に弱く生産性が低いため、この豆を栽培する農場はひじょうに少ない。下坂農園では、高田さんのリクエストによって、丹念に生産している。
焙煎機
高田さん自身が考案した焙煎機。ドラム容量は20kgだが、焼きムラを回避するために1度に焼く豆は10kgまで。きっちり中まで火の通った豆は、ひと粒ひと粒が自分で弾けるほど。
「収穫から年数が経てば豆がある程度自然乾燥していますから、火の通りがいい。結果的に焼き易いので、失敗がない。つまり、『ビンテージ・ビーンズ』がもてはやされるのは、業者側の理論なんです。きちんと焙煎すれば、鮮度のいい豆の方が間違いなく美味しい」
高田さんが、きっぱりと言い切った。
ロースターが置かれる工房に入れていただくと、中は芳ばしく、甘い香りで満ちていた。バッハの「コーヒー・カンタータ」では、ディーバが『コーヒーはマスカット酒より甘い』とアリアを歌いあげる一幕があったのを思い出す。
高田さんが、一回に焼く生豆は10kg。ご自身で考案したロースターは、一般的には20kgの容量を持つほどの大きさがあるが、豆のひと粒ひと粒にしっかり中まで火を通すとなると、このくらいの余裕を持たせないと――、とくにニュークロップでは、焼きむらが生じるらしい。なるほど、生産効率が倍であれば、多少高価であってもビンテージ・ビーズがもてはやされるわけだ。
高田さんに教わった
美味しいコーヒーの淹れ方
ドリップ式の場合、一般的には10g前後が一杯の分量とされるが、まず、この豆の量を倍にする。これが最大のポイントだそうだ。もちろん、単純に豆をたくさん使わせたいから、などという理由ではない。湯量が増え、いたずらに抽出時間が長くなると「美味しい」と感じる苦味や香り以外の雑味も溶け出てきてしまうのだ。少ないお湯で丁寧に抽出後、好みの濃さに薄めるのだそうだ。つまり、2杯淹れるとしたら20~25gの豆を150cc程度の湯で抽出し、その後同量の湯で割るということだ。湯温は60~80度が適温。これ以上高いと時間が長くなるのと同様、余分な成分が出てきてしまう。また、コーヒーには200種類以上もの成分が含まれており、それぞれ湯の温度によって溶け出し方が変る。そのため同じコーヒー豆であっても湯温が違えば必然的に味、香りに違いが出る。何度か湯温を変えて淹れ、ぜひともご自分のお好みの見つけていただきたい。
ひと通りの取材を終えると、高田さん自らコーヒーを淹れてくださった(待ってました!)。淹れ方は、ネル・ドリップ。布の中にたっぷりと中挽きの豆が盛られている。ポットに湧いた湯が落ちついた頃合を見計らって、そこに数滴の湯が垂らされる。そして、ドリッパーを操りながら、少しずつ、けれど途切れることなく、まるで1本の糸を紡ぐかのように湯が落とされていく――。果して、小ぶりのデミタスカップに注がれたそのコーヒーは、まずその透き通った褐色が美しい。そして小さなカップの中から、芳醇な香りを放っている。優しい香りだけれども、力強い。口に含むと、そのコーヒーは舌に絡みつきながら、ゆっくりと苦味、甘味を筆頭に香味を解いていく。そういえば、先のアリアの前には「コーヒーは、1,000回のキスより素晴らしい」とあったっけ。
(LOHAS編集部)
LOHAS×間菜社コラボ企画
19等級ニュークロップ使用
Premium
2,560円/200g(税込)
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ゆっくりとドリップして淹れたコーヒーの味はやっぱり最高ですね。いつものコーヒーもひと味違います。コーヒータイムは急がずに、、、が基本ですね。
投稿者:風子
2007年07月05日 17:50
ずっと以前、代々木上原にあったキヨズ・キッチンで間菜舎のコーヒーをいただいたことがあります。
味が濃いのに甘い、他では味わえないコーヒーでした。店主のキヨさんが時間をかけて落としていました。あれと同じものなのでしょうか?
投稿者:たたら
2007年07月05日 19:12
たたらさん、コメントありがとうございます。
そのとおりです。キヨズキッチンでキヨさんが丹誠込めて淹れていたあのコーヒーと全く同じ血統を持つコーヒー豆です。同じ農園で収穫され、同じ焙煎家の手で焙煎されたモノです。
唯一違うのは、この豆はその同じ農場の中でも最高のものだけを厳選したものだということです。喩えてみれば、同じ桃の木になった桃なのですが、特に熟れて大きく実った美味しいものだけを選りすぐったということです。
焙煎家の言葉を借りるなら「凄いBODY」のひと言です。レストランでは、コストが合わないため出回ることのない、貴重な味をぜひご堪能ください。
投稿者:LOHAS編集部
2007年07月06日 12:40
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