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がんばるニッポンの中小企業

あまり知られてはいないけれど、旧ソ連から独立したカザフスタン共和国は、日本と同じ地震大国だ。同国は、サンハウジング(株)が開発した「対震パーツ」の有用性を認め、日本の建築基準法に相当する法律も改正してしまった。わずか12人の中小企業ではあるけれど、一国の法律までをも変えてしまった製品は、どのようにして生まれたのか? そこからモノ作りの本質が見えてきそうだ。

LOHAS編集部 [2008.01.11]

 気象庁の発表によると、今年の7月に発生した新潟中越沖地震は、住家の全壊1,259棟、同半壊5,485棟という凄まじい被害をもたらした。しかし、同地震のように大きく報道されることはなくても、ここ10年の間に住宅の倒壊(全壊/半壊)を招いた地震は、実に11回も発生しているのだ。つまり、1年に1回は、日本のどこかで、地震による家屋倒壊が起きているのである。

 こんな状況を鑑み、ハウスメーカーや建築部材メーカーは「耐震」を喧伝する住宅やドアはもちろん、さまざまな部材を開発、販売している。とりわけ、地震発生時には、当然のことながら、速やかに屋外に避難しなければならない。しかし、その際に問題となるのが、ドア枠の歪みだ。家の中に閉じ込められてしまい、倒壊した家屋の犠牲になるという2次災害が少なくない。そのため部材メーカーは「耐震ドア」の開発には特に力を入れている。そしてそのほとんどは、地震に抗することを眼目に作られている。地震のエネルギーに「耐える」ようにと。


耐えても防げない地震。
肝心なのはいかに対応するか。

 この地震に耐えるという考え方を、地震に「対応する」と切り替えたのが、サンハウジング株式会社である。
「地震のエネルギーは計り知れません。それに耐えようとすると、どうしても最大級の地震を想定しなければならないので、コストも跳ね上がります」
 そう話すのは、同社専務の鈴木保さん。その考え方をベースに2005年に開発したのが「対震ドアパーツ」だ。これは、ドアとドア枠(上部)それぞれに取り付けるくさび型のステンレス材とドア下に仕込む球形のキャスター。地震でドア枠が歪むと、くさびによってドアにかかった圧力が分散され、ドアが押し出されるという仕組みだ。その安全、確実性は、第三者機関である「建材試験センター」(埼玉県)で実証確認がなされている。まさにコロンブスの卵。発売後、2年先の生産まで予約が入る大ヒット商品となる。
 そしてこの商品は、ヨーロッパにあって地震多発国であるカザフスタン共和国から注文を受けることになる。 「ちょうどその頃、カザフスタン政府の役人が、日本の“耐震製品”の視察に来ていたんです。で、当社にも来たのです。模型で動作をみてもらったところ、その有用性をすぐにわかってもらえたんです」(鈴木さん)。
 同国は、日本の建築基準法に相当する法律を改正、サウハジンングの「対震パーツ」の取り付けを義務付けたのだ。わずか社員12人の建築会社の年商は、一気に45億円に膨れ上がった。

(図1)

地震の際、歪んでしまったドアはそれがつっかい棒になってしまい、避難の妨げとなる。先の阪神淡路大震災では、倒壊した建物から3万5,000人もの人が自力で脱出できなかったという報告がある。震度7~8の地震に見舞われると、ドア枠は4cm程度歪む可能性がある。そうなると、ドアの材質や厚さによって異なるもの、到底人力で開けることは困難に。

(図2)

「あくんだぁ」は、ドア枠の上下に取り付ける対震パーツ。その大きさはタバコ大で、その中からクレセント錠の形をした金具がせり出し、つっかい棒になってしまったドアをこじ開ける。

(図3)

カザフスタン政府が白羽の矢を立てた「対震パーツ」。
ドア、ドア枠 それぞれ取り付けられたくさび型の金具によって、歪の力がかかるとドアが押し出される仕組み。


さらなる汎用品、
「あくんだぁ」の登場。

 しかし、日本の場合マンションのドアは「共有部」と見なされるため、その取り付けには組合の同意が必要。組合の同意が取れず、困惑している、という問い合わせが相次いだ。
それに対処するために、リリースされたのが、ドアの上下に取り付け、約500kg以上の力でドアをこじ開ける事も可能な、その名もずばり「あくんだぁ」。W3.5×H10×D6.5 cmというタバコサイズのケースから、クレセント錠のような金具が中からせり出だしてくる。これがテコとなってドアをこじ開けるのだ(写真1参照)。
 同社の躍進を「目のつけどころがよかった」と言ってしまえばそれまでだが「あくんだぁ」の開発の根底には「人のため」という思いが見える。
 阪神淡路大震災では、倒壊した家屋に閉じ込められ自力で避難できなくなってしまった人が3万5,000人以上いたと言われている。いつ崩れ落ちるかわからない家の中に閉じ込められた人々の、その時の心情は、まさしく言葉にできない恐怖であったろう。
 サンハウジングの対震パーツは、もし自分たちがそんな惨事を避けるための一助ができるならば……、との思いから出発している。
「日本にいる以上、地震はどうしても避けられない災害です。しかし、いつ、どのような規模の地震に襲われるか、誰にもわかりません。いくら備えが必要といっても、現実問題としてそれに何万円ものお金を費やすことは難しい。ならば、ぼくたちが建築会社として住宅に関わる部分で、誰もが手にできる安心を提供できないものかと」(鈴木さん)
 大資本がなければ出来ない製品もたしかにあるだろう。でも、モノを作るということは、鈴木さんの言葉のように少なからず「人のために」という思いがあってこそ、真っ当なモノができるし、またそれは必ず受け入れられる。サンハウジングの一連のヒット商品が、それを実証している。


あくんだぁ ¥8,400(セット)

地震でドアが歪んでしまっても、約500kgの力が作用しこじ開ける。設置はドアの上下にビス止めするだけ。
寸法:W3.5×H10×D6.5 cm

写真1:

専用のレバーを差し込むことでテコの原理で500kgのパワーを発揮


●問合せ先:サンハウジング株式会社 0120−50−3819
http://www.sunhousing-jp.com/


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