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LOHAS編集部が惚れ込んだマイスター
世界の料理人が集う畑
浅野ファーム
代表 浅野悦男さん

ニッポンの野菜は香りや味が弱い――。フレンチやイタリアンのシェフの中には、そんなふうにうそぶく人が少なくない。たとえ同じタネから育てても、ヨーロッパとは土も水も違うから、同じようにしっかりとした味と香りを持つ野菜は育たないのだ、と。でも、ここ浅野ファームの野菜たちを食べたなら、きっと思いが変わるだろう。浅野悦男さんが頑なに続ける独自の農法によって、浅野ファームの野菜たちは、みな強烈な個性を主張しているのだから。
LOHAS編集部 [2007.10.15]


橋に「ブリックス」という粋なダイニングがある。新鮮な素材を鉄板でさっと焼き上げる料理と、コストパファーマンスの高いワインを目当てに、連日多くの常連客で賑わっている。5~6席のカウンターの他、スタンディングが基本のテーブルが4~5つ。みんなが立っても20人も入ればいっぱいだ。だから予約もなかなか取れない。やっと入れてテーブルを見回すと、たいてい「さっと焼いただけの野菜」が置かれ、みな美味しそうに食べている。
 しっかりとした土の香りを伴って、それぞれの個性を発揮する野菜たち。このひと皿で、白ワインのボトルがすぐに空く。「千葉で浅野さんと言う方が作っているんですよ」初めて食べた時、シェフの渋谷さんが教えてくれたのだ。それから数ヶ月、やっとチャンスがやってきた。

販売は「この人なら」と見込んだ料理人だけ

 東関東自動車道、東金道を乗り継ぎ八街市に入る。道路の両側には豊かな田畑が広がる農業地帯だ。訪れた10月初旬、畑々には名産の落花生をはじめサトイモやニンジンの葉が風になびいている。浅野ファームの入口には、取引のある全国の料理店の名が並んでいる。残念ながら、浅野ファームの野菜は、現在料理店のみに卸されていて、一般流通していないのだ。しかも、浅野さんが“認めた”料理人でないと取引をしない。本人が畑に出向いて、野菜談義を浅野さんと交わさなければならない。これがイニシエーション(通過儀礼)となる。そこで料理に対する考え方、野菜にナニを求めるかなどを、畑で栽培されている野菜を摘まみ食いしながら、大いに語り合う。そこで認められなければ、ここの野菜は手に入らない。いまどき、これほどまでに剛毅な売り手はいないだろう……。
 なぜ、浅野さんがそれほどまでに、自らが作る野菜に自信をもっているのか? それを問うと実に簡単明瞭な答えが返ってきた。
「美味い野菜しか作らない」
 自分が納得しない野菜ができなければ、出荷しない。新しい野菜を作付けした際など、出荷までに3年を要することも。この真摯さが、シェフたちが全幅の信頼を寄せるゆえんだろう。

美味しい野菜は自然が育てるもの

 実はこのひと言が、日本の農業の問題点を浮き彫りにしている。どこの産地、農協でも「美味しい○○」と喧伝する。しかし、ここに大きな落とし穴があるのだ。ほとんどの生産者が“いい野菜”と思っているのは、楽に多く収穫できる野菜なのである。残念ながら、味そのものは二の次になっているのが現状だ。この向いている方向が違うため、自ずと出来上がる野菜も異なってくるというわけだ。
 浅野さんの野菜作りの詳細については割愛するが、基本はひとつ。「余計なことをしない」に尽きるそうだ。年に一度、霊芝エキスを製造している工場で出た搾りかすを混ぜた堆肥とカルシウムを補う牡蛎ガラの粉末を入れ耕し、後は適期に種を蒔くだけ。その後収穫まで追肥はもちろん、水やりもほとんどしないそうだ。「それでダメになる野菜は食べても美味くない」と。うーん、人と同じように、過保護はだめなのですね。でも、きれいに整備された畑をみれば一目瞭然、決して“放任”ではないだろう。

あの有名シェフが浅野さんをフランスに招致!?

 畑を歩きながらお話を伺っていると、おもむろに紅オクラの花を摘み、食べるように促された。花びらを剥がし口に入れると、実より淡いが、まごうことなきオクラの味。その淡さゆえ、可憐な花びらのイメージにぴったりだ。
「みんなオクラは実しか食べようとしない。でも、花びらやつぼみ、それに種だって実に美味いんだよ」
 また、浅野さんは料理そのものに関しても、ひじょうに造形が深い。
「ビネガーで酸味を作ったら、肉や魚全体に周ってしまう。でも、たとえばベコニアの葉で酸を足すならば、肉の味と混ざるのは葉っぱを噛んだときだけ。肉の味もはっきり残る」
 なるほど、野菜ばかりではなく、メニューのヒントをも仕入れるシェフも少なくないのだろう。そんな浅野ファームには、世界のビッグネームも訪れる。
「ピエール・ガニェールは、自分が土地を提供するからフランスに野菜を作りに来い、って言うんだよ(笑)」
 もちろん、浅野さんがフランスに行ってしまっては日本のシェフたちは困るだろうが、「海を渡って“美味い野菜”を作りに行く男」の誕生も、実にロマンティックな話ではないか。シェフたちには申し訳ないが、そんな日が来ることを楽しみに待ちたい。


<CHEF’S GARDEN FARM>

日本全国、浅野ファームに全幅の信頼をおくシェフたちの寄書きならぬ寄看板。

<セルバチコの花>

畑の片隅に揺らぐセルバチコ(ルッコラの野生種)の花。栽培種のルッコラは水耕、土耕とあるが、こちらは土耕栽培のものよりもさらに濃い味わい。何もされない野菜(野草?)の味はやはり強い。ここから、浅野農法の極意が生まれたのか!?

<ガニェール>

あのピエール・ガニェールも浅野ファームを訪れている。浅野ファンは、いまやワールドワイドだ。


浅野さん

時には冗談も交え、さまざまなお話をしてくださった浅野悦男さん。野菜作りだけではなく、その豊富な知識に驚く。

Information

浅野ファームでは、浅野悦男さんの農法を継承したい若者を募っています。
詳細は(有)ルコラステーション 畝田(うねた)さんまでお問い合わせください。
e-mail:rucora-station2@apricot.ocn.ne.jp


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コメント

私の友達が浅野ファームに住み込みで働いています。
一度、遊びに行った時に、浅野さんのお野菜をご馳走になったんですが、すんごい美味しいですよね!

投稿者:きらら
2008年01月23日 16:59

きららさん、コメントありがとうございます。
記事でも紹介した通り、浅野さんは野菜作りのかたわら、その技術(マインド)を後進に伝えるべく「浅野塾」を開設しています。
きららさんのお友達も、野菜作りの達人となり、美味しい野菜を食べさせてくれるのでしょうね。その日が楽しみですね。

投稿者:LOHAS編集部
2008年01月23日 17:07

「浅野塾」とはどんなことをするのでしょうか?
私は野菜作りに興味があって、今勉強中なのですが
詳細を教えていただけませんか?

投稿者:green
2008年03月31日 23:05

greenさん、遅れてごめんなさい。
「浅野塾」は、浅野悦男さんがこれまで培ってきた農業のノウハウを、
後進に引き継いでもらおうとはじめたものです。
浅野ファームで実際に浅野さんと野菜作りをしながら、さまざまなノウハウが学べるようになっています。費用等は運営をしているルコラステーション/畝田さんにお問い合わせください。
ルコラステーション
e-mail:rucora-station2@apricot.ocn.ne.jp


投稿者:LOHAS編集部
2008年04月05日 13:33


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